文書作成日:2023/12/14
36協定の特別条項を適用する際の注意点
坂本工業では、工場で機械トラブルが発生し、36協定で締結している延長することができる時間数を超えて、残業をさせる可能性が出てきた。そこで、社労士に36協定の特別条項を適用する際の注意点を確認することにした。
こんにちは。先週から工場で機械トラブルが発生し、この対応のため、36協定で締結している1ヶ月45時間という時間数(以下、「延長時間」という)を超える可能性が出てきました。この延長時間を超えて残業をさせたとしても問題ないのでしょうか。
緊急対応に追われているということですね。残業は原則として、36協定の延長時間の範囲とする必要がありますが、特別条項付きの36協定を結んでおくことで、そのような一時的・突発的に残業を行う必要がある場合は、年6回まで延長時間を超えて残業をさせることができます。
特別条項付きの36協定ですか?
はい、そうです。お手元に36協定届があるようですので、確認しておきましょう。私の記憶では、36協定を作成する際に、製品トラブルや機械トラブルなどが起きたときにはなるべく早く対応が必要で、限度時間を超えるかも知れないとお聞きしたので、特別条項を付けた記憶があります。あ、ありますね。年6回まで月70時間まで延長できるという内容になっています。
ということは、今回は月45時間を超えて残業を命じることができるということですね。特別条項を適用する場合、具体的にどのような手続きが必要でしょうか?
締結した36協定の「限度時間を超えて労働させる場合における手続き」のところに、「労働者の過半数代表者に対して、事前に特別条項を適用する旨を通知する」と記載していますので、この内容の通りに手続きを行う必要があります。具体的には、残業時間が45時間を超える可能性のある従業員を洗い出して、その従業員には「特別条項を適用する」ということを従業員の過半数代表者に対して通知することになります。
今回は製造部の一部の従業員が対象になりそうですが、特別条項の適用単位は、製造部などの部署単位または従業員単位のどちらになるのですか。
従業員単位となります。御社の36協定の特別条項を適用できる回数は、1年に6回までとなっていますので、従業員ごとに6回までに収めるようにする必要があります。
従業員ごとに6回の管理をしていく必要があるということですね。先ほど、通知は従業員の過半数代表者に対して行うという話がありましたが、特別条項が適用になる従業員に対して通知する必要はないのでしょうか?
実務的には、45時間を超えて残業をお願いすることになるという話を上長から従業員に伝えてもらった方がよいと考えますが、特別条項を適用する際の手続きにおいては、36協定の内容に従うことになっているため、御社の36協定届の内容であれば、特別条項が適用となる従業員に通知することまでは求められません。
そのほか、注意することはありますか?
先ほど見ていただいた項目の下に「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」というものがあります。御社の場合、「対象労働者への医師による面接指導の実施」と記載してありますので、特別条項を適用した従業員については医師の面接指導を行う必要がありますね。
36協定を作成したときは、この健康及び福祉を確保するための措置を実施するところまでイメージできていませんでしたが、限度時間を超えて労働させた場合はここに記載した内容を実施しなければならないということですね。今回、特別条項を適用する可能性が出てきたことで、理解できました。
この実施状況に関する記録は、36協定の有効期間中と有効期間の満了後3年間保存する必要があります。対象になったときは必ず実施するとともに、記録を残しておきましょう。
わかりました。
>>次回に続く
上記の内容の他に、特別条項を適用した場合の注意点として、月の時間外労働と休日労働の合計が、1ヶ月当たり100時間未満、2〜6ヶ月の平均をとって1ヶ月当たり80時間を超えないことを遵守する必要があります。
特に平均については管理が煩雑であり、例えば特別条項において1ヶ月90時間まで延長するという内容で締結している場合には、当月は90時間の範囲に収まっているほかに、2〜6ヶ月平均でも月80時間以内に収める必要があります。そのため、当月に90時間の時間外・休日労働があった場合には、その翌月は70時間以内に収めることが求められます。また、この2〜6ヶ月の平均は、36協定の期間にしばられることなく、前後の36協定の期間をまたいだ期間にも適用されます。
■参考リンク
厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。